森特任准教授とのディスカッション【後半】

森特任准教授とのディスカッション【前半】に引き続き、後半を今回はお届けします。



プログラムの成功と人生の成功

メンバー(鈴木):大学や各プログラムによって、「こういう人材を養成する」という目標が色々あると思うが、一方で、学生はプログラムが進む中で自分のキャリア観や進路に対する意識って変わってくるものだと思う。自分の場合は大学研究者を希望しているが、登龍門は「プロフェッサーの養成」ではなく、「プロフェッショナルの養成」ということを掲げているので、はじめのころは大学研究者という進路を言い出しにくいと感じてしまうこともあった。。そのあたりってどうあるべきなのか。


森さん:やっぱり教育プログラムなので養成する人材像を描いてプログラムを作るのは当然です。短期で教育の「成果」を出さなきゃいけないので、プログラムの成功と個人の人生の成功を考えねばならずたいへんです。でもプログラムを運営している先生たちと話していてわかるのは、真剣に「個々の人生」のことも尊重されていると思いますよ。学生のみなさんに言っていることや、学生の皆さんが感じとっていることと、本心や本音とギャップがあるかもしれないけど。


メンバー(鈴木):コーディネーターの先生は最近考え変わってきたと言っていて。例えば昔は、学生がプログラムの途中でやめることに関して、ネガティブにとらえていたけれど、最近は必ずしもそうではないって思うようになったとか。学生の立場としては、(人生の選択を自分自身で考えて選択できるので)すごく居心地が良くなったと思っている。


森さん:最近特に、変わってきたと感じる。リーディングの先生たちも、最初は研究やプログラムに関係する大手企業の人たち中心にしか接触がなかったのが、ベンチャーさんとか中小企業さんとかと会う機会が広がった。今度の8月(センター主催イベント『企業と博士人材の交流会』)でも、名古屋大学の6つのリーディングの先生方と60社と会っていただく機会を去年から設けているんです。これだけではないけど、先生方もベンチャーとかの熱い社長とか、いろいろな場で活躍している博士と会う機会も増えて、これまでにない情報が得られてプログラム運営に影響を与えているんじゃないかって思う。企業さんも急激なスピードの変化と、絶対にグローバルに出て行かないと生き残っていけないっていうことで、ぐーっと変わって来たし、経営者層の研修をやっているくらい。接触する企業側も必要とする人材像が変わってきていると思う。プログラムの途中で自身の目的を達成しないで辞めちゃうのは大学として改善していくことがあると思うし残念だけど、プログラムの途中ででも目的とした経験ができて、いち早く貢献できる人材として活躍できるようになっているのだったら、プログラムとしても学生さんとしてもwin-win、大成功といってもいいのかなっと思いますよ。



「どこに所属するか」は成果ではない

森さん:目標を決めてそこを目指すのもひとつだけれど、何かやっているうちにたどり着く場合もあるし、全部が全部(目標ありきじゃ)なくてもいいのかなって。プログラムとしては、目標決めてそれに向かうのが理想なんでしょうね。でもいろんな人がいるのが実際のところ。大学もそれはよくわかっているつもりなんだけど。

企画メンバー(近藤):やってみたことの成果がどう出るかっていうのをもう少し柔軟にとらえてくれてもいいのでは。最初から、「このプログラムの成果はこれだ、こうならないと失敗だ」となると、ちょっとリジッドすぎると感じる。

森さん:そう感じている学生さんがいることは受け止めておきたいと思います。プログラムの成功と個々の学生の人生の幸せの両輪を考えてはいると思うし、長い目でみてあの時の経験がよかったな~と思うことも出てくるとは思うんです。でも日本はやっぱりどこかで「ネームバリューのあるところを目指せ」みたいなところがあった。いまは日本も変わってきていますよね。大手企業がすべていいっていうわけじゃなくなってきている。個人の人生として、アウトプットが成果であって、どこに就職した、とかどこにいる、という組織が成果ではない。それは先生たちが一番よく感じていて、「ネームバリューのあるところを目指せ」という部分もあるかもしれないけれど、そうはいっても・・・って感じられている部分もあると思います。





編集後記

 本企画でこれまで実施したインタビューの中では、修士課程で卒業し、就職する道を選んだ学生に対して、プログラムの先生方が厳しい評価をすることに違和感がある、という意見も修了生の方から聞かれた。


 途中でプログラムを抜けたとしても、それがプログラムに参加する中で色々考えたからこその結果でもあり、彼らがその経験を生かして多様な場所で活躍するならば、それはある意味でプログラムの「成果」ともいえるのかもしれない。これは教育プログラムの評価の難しいところでもあるが、特にリーディング大学院のように、「リーダーシップ」などの、5年後にすぐ測れるわけではない能力の養成を目指す教育プログラムでは、なおさら広い視野が必要になると思われる。


 長い目で見たときに学生自身が自分の道を切り開いていくことができるような力を身につけるには、学生自身による覚悟と責任ある「意思決定」と、プログラム側による学生の「意思決定」への信頼との両方が大切であるように感じた。


森さん、ご協力ありがとうございました。

リーディングフォーラム2017学生企画 - はかせだもの みんなちがって みんないい

博士課程教育リーディングプログラムフォーラム2017内で開催される学生企画(10月21日開催)の広報ページです